「新しい釣漁業の技術」山下楠太郎
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つくるにあたって、その理想基準を考えてみました擬餌は、柔らかく、トウメイで、そして海水中に入れても硬くならない不変性が必要である。しかも着色しやすい、色のさめないものでなければならぬということでした。その当時、終戦まもなくの頃は、従来のゴムやスポンジのようなものしかなく、試作をしてみても仲々漁をするまでには行きませんでした。それから私は、神奈川県の工業試験場とか、その他の参考になることを教えてくれる会社や色々の科学者に会いました。そして自分の漁業の体験と漁具漁法のあり方を情熱をもって力説し、先ず自分を理解して協力して下さる方々を歴訪し、漁師の経験とわずかな工業的、化学的知識しかない私をたすけてもらいました。現在のものに近いものが出来上がるまでには、それは苦心の連続でした。幸いに小さい漁船がありましたから試作品をたずさえて沖に出かけては、試験をしてみました。そうしてようやくにして現在のものにはとてもおよびませんが、私の考えに近いも64のために次々に海上でなくなり、私一人が今日、こうして漁具漁法の研究にたずさわっておりますが、こうした事が今の私の背景にあることは否定できない事実であります。さて、話を元にもどして、魚は餌付きの良い時には、それ程に漁具を選んではきませんが、昨今のように釣りにくい魚、量の少い魚を釣ろうとするには、よい漁具を選ばなければなりません。魚の生態、習性に適合したものの条件としては、前章の如く、餌魚のようにぴちぴちと逃げまわり、餌魚の如くよく動き、柔らかいびらびらした皮膜を持ち、あたかも本物のような海泳音をよく出すものが擬餌の本命であります。ビニール製の現在のタコ、イカ、イワシ等の製作研究に着手した時、私は「山下もとうとうオモチャを作り初めた」とか「とうとう頭がおかしくなったのではないか」と昔の漁業仲間や親友達に気違い扱いされたことがありました。私は過去の色々な漁業の体験をもとにして擬餌を

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