「新しい釣漁業の技術」山下楠太郎
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な海中にほうり出されて、お腹はすいてくるし、寒さは寒いし、「神よ仏よ助けたまえ」と苦るしい時剛の神だのみをしておりました9ところが、命の綱とすがりついている船が、潮流にも関係なく、ごくゆっくりですが、ぐるぐるとまわっているように感じるのです。そこで何で船が廻るのだらうと、弱った体の力をふりしぼって、その原因を皆んなで探してみました。ところが一体どうしたことでしょう。船の甲板に積んであった鮪細が海中に流され-本の釣針が船に掛かりその先の釣針に赤いぼろ布がひっかかり、それが海中にただよっている内に、鮪(メバチマグロ)が喰ってぐるぐる引張っているのでした。「バチがかかっているぞ」という声に、漁師の魂が呼び起され、皆んなでその魚を沈みかかった船の端にのせて、空腹を満たしたわけですが、その後、助けられて帰って来た兄弟達の話をきいて、私は、「魚は生き餌ばかりでなくても、擬餌でも充分に喰ってくれるのだ」ということを、胆に銘じて知ることが出来ました。その後、七人の兄弟達は、太平洋戦争や海難事故阿曽浦の真珠作業63

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