「新しい釣漁業の技術」山下楠太郎
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ってみると、目の無い鯛が他の仲間と同様にエサにかぶりつく事は、実験的にも知られています。このように、魚だけの持つ特殊器官である側線は、魚が潮流に押し流されるようなときに体の中心を保ったり、害敵や餌魚を探知したり、岩礁の中を電光の様に泳ぎぬけたり、仲間同志の体の間隔を保ったりする、重要しかも独特な器官であり、本能的な器官であります。弱肉強食の食物連鎖が、たえずくり返され、稚魚幼魚の時代から、恐怖と自己防衛、自己生命の保存に必死になって生きつづけ、子孫を繁栄させる彼等にとって何物にもかえがたい造化の神の贈り物であります。私は側線こそは、魚のレーダーであり、皮層のヌルヌルナメナメした皮膜こそは、レシバーであり、魚の漁獲を計る上からも、今後ますますこの側線や皮膜の研究を押し進めて、近代漁法の道しるべにしてしかるべきだと考えております。②視覚による魚は深海にいる盲目魚や特殊な魚を除いては、左右に一つずつの目を持っておりま25魚の音波に対する感覚はその棲息する環境に合せて、例へぱ、ヒラメのような海底の砂泥中にもぐるものは尾の先端まで側線がついていて砂にもぐっていても尾さえ出しておけば感知出来るようになっている。アイナメは岩礁中に住んでいる関係から、岩礁にぶつかる波音を感知しその中を敏捷にくぐり抜けるようにするために五本の側線がついています。又、トビウオ、サンマなど水面から空中に飛び出せる魚は腹部近くに側線がみられることは、よく知られたところであります。科学者はこの側線について色々な実験を試みてその神秘を究明しようとしておりますが、一、一一の例を上げると次のようなことがわかりました。魚をつかまえてきて、水中帽のように、ゴム製の頭巾を頭部にかぶせると、魚の動きは側線の神経を防害されてぎこちなくなり、人の手が魚の体にふれても気がつかなかったり、泳ぎがにぶくなったりすることがあることも実験されています。それと反対に鯛の目を取り去って、水槽の中で飼

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