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タコベイトの歴史

02

「釣れる疑似餌」の理論を確立

魚たちは、どんなエサを 食べているのか?

魚たちが捕食しているエサの種類

 疑似餌を使用する釣りに限らず、魚が食べているエサについて知ることは釣りの基本中の基本である。そもそも、魚たちは普段どんなエサを食べているのだろう?
 広大な海において、食物連鎖の壮大なトライアングルの底辺を支えているのは、海中に漂う微細な浮遊生物=植物性プランクトンである。これは海の牧草のようなもので、エビやカニの仔、動物性プランクトンなどにとっては最高のご馳走となっている。そして、こうした小生物たちはイワシやアジ、イカ類などに捕食され、さらにこれらの小魚がカツオやマグロ、ブリといった大型の魚食魚(フィッシュイーター)の格好のエサになるわけだ。
こうした弱肉強食が成立しているトライアングルにおいて、いつでもどこでも誰が使ってもよく釣れる疑似餌とは、いったいどんなものなのだろうか?

釣れる疑似餌の仮説を立てる

 魚を惹きつける疑似餌、ためらいなく食べる疑似餌とは、単なる活きエサの模造ではない。もちろん、形状を似せることも大切だが、まだ何かがある。その「何か」とは、魚がエサを認識するために駆使する聴覚と視覚、すなわち「音、光(色)、動き」に関係があるらしい……。
 漁師として類い希な才能があった山下楠太郎は、経験的にそこまでは推測していた。しかし、それから先はわからない。魚類学専門の学者たちに聞いてみても、自分の知っている以上のことは教えてくれなかった。むしろ、楠太郎が愕然とするほど魚類学者たちの研究は遅れていたという。魚類の専門書を読んでいると、楠太郎の経験ではあり得ないような間違った記述もあり、「魚はそんなバカではない!」と憤慨することもたびたびであった。そこで楠太郎は、自分自身のこれまでの経験と研究の繰り返しから、以下の仮説を立てるのである。

魚はどうやってエサを探すのか?

 さらに、楠太郎が漁師をしていた頃の経験で確信していたのが、「魚が大群で回遊しながらエサを求めるとき、エサとなる小魚も大群になっている」という事実だ。そして、遊泳音や捕食音を発する擬餌は、この小魚の大群と同様の波動をも生み出すと推測したのである。
 そこで楠太郎は、より柔らかで効果的な波動が出せる素材に着目する。当時、疑似餌の素材としては貝殻、牛角、鳥毛などといった天然素材がほとんどだったが、戦中から戦後にかけて研究を進めるなかで、楠太郎が大きな可能性を感じたのが、終戦後から出回り始めた「塩化ビニール」であった。

魚の聴覚と「波動理論」

 魚がエサのいる場所を探すにあたって、もっとも重要なカギを握るのが「音(振動、波動)」である。水中における音速は、一秒間に約1,500メートル。陸上の約5倍の速さだ。このため、水中を泳ぐ魚は音に対する反応が非常に鋭く、人間には聞こえない低音や波音、遊泳音、超音波なども感じ取ることができる。
 水中の生物が発する音としては、捕食音、遊泳音、警戒音、呼吸音などがあるが、これらの多くは人間には聞き取れない(感じ取れない)波動として水中に伝わる。したがって、エサとなる小魚の遊泳音や逃げ惑う音といったわずかな波動を発する疑似餌なら、狙った魚を呼び集められると楠太郎は考えた。まさに、現在のルアーの設計においても重視される「波動理論」である。

魚がエサとして認識する「色と光」

 魚が人間と同じように赤、黄、緑、青、紫といった色を識別することは、楠太郎が疑似餌を研究していた当時から判明していた。人間には見えない紫外線も認識しているし、魚によって好む色、好まない色があることもわかっていた。
 海中に差し込んだ光は、その波長の関係で水深数メートルで赤色が半分ほど吸収され、水深50~60mで消滅。やがて橙色や黄色も見えなくなり、濃紺から漆黒の世界になる。さらに、天候や太陽の角度、水色、プランクトンの発生状況などによっても水中の明るさ(光量)は変化し、そこで見える色もどんどん変わる。したがって、陸上で見たエサの色をそのままイメージして疑似餌を作るのはナンセンスである。
 たとえば、イワシなどの小魚は、自分たちがいる環境に合わせて保護色になっている。そして、ときおり身体を反転させたり、何かに驚いて身をかわすときなどに、一瞬「キラッ!」と光って見える。同様に、魚のエサとしてもっとも好まれるシラスやエビ、イカ、プランクトンなども海中ではほとんど透明で、わずかに眼の部分などが見えるだけなのが普通だ。
これらのことから、通常は保護色や無色透明で、ときおり魅力的に光ることが、釣れる疑似餌づくりの大きなヒントになると楠太郎は考えたのである。

 楠太郎がさらに重視していたのが、疑似餌の動きと大きさである。天然素材の疑似餌を使っていた頃の経験から、その動きが本物のエサのように見えれば、魚は遠くから飛んできて、ためらうことなく食い付くことはわかっていた。逆に、形状だけがエサに似ていても、少しでも不自然な泳ぎ方をしていては絶対に釣れない。活きエサでも、死にかかった小魚などでは反応が悪いのと同じである。実際、その後の試作でイワシの形を模した疑似餌を作ったものの、安定して泳がせることが非常に難しく、よく釣れるようになるまでには幾度となく改良を繰り返したという。

釣れる擬餌の「動き」と「大きさ」

大きさについては、そのとき魚たちが食べているエサのサイズに合わせることが大切。とくに、狙いの魚たちがシラスやアミ類などの小さいエサを捕食している場合は、それに合わせた小さく柔らかな疑似餌を使うことが不可欠であることも楠太郎は承知していた
 以上の仮説から、いよいよ自分が思い描いた疑似餌の試作にとりかかる楠太郎であった。しかし、戦時中の物不足の時代において、こうした考え方はあまりにも早過ぎた。結局、昭和12年に疑似餌の開発を決意したものの、タコベイトが完成するのは戦後のことだったのである。

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